セルは勢いよく回るのに、エンジンが目を覚まさない。朝は普通にかかったのに、出先で少し止めただけで再始動できなくなった。RX-8(SE3P)でこうした症状が出ると「圧縮が抜けた、載せ替えだ」と考えがちですが、整備記録を見ると、かぶりやセルモーター、イグニッションコイル、スロットルボディで直った例も少なくありません。載せ替えの前に確かめる順番と、圧縮が本当に落ちていたときの費用をまとめました。
どの理由でかからないのかを確かめる
ロータリーの始動不良は、いくつかの原因が連鎖しやすいのが厄介なところ。セルの回りが弱いとかぶりやすくなり、圧縮が落ちるとコンピューターが燃料を多めに噴くので、これもかぶりを招きます。症状ごとの見当は次のとおりです。
| 症状 | 疑わしい原因 | 確かめ方 |
|---|---|---|
| 冷えた状態でかけてすぐ止めた(車庫入れなど)あと、初爆が無い | プラグかぶり | デチョーク(アクセル全開でクランキング)でかかるか |
| セルの回りが遅い。一度かけ損ねるとデチョークしてもかからない | バッテリー・セルモーターの弱り | クランキングの速さ、バッテリー電圧 |
| かかりが悪い、冷間でもたつく、燃費が急に落ちた | イグニッションコイル・プラグコード | コイルの交換歴。2本傷むと始動も難しい |
| 冷間はかかるのに、温まって止めると再始動できない。冷えればかかる | 圧縮低下(アペックスシール・サイドシールの摩耗) | ロータリー用の圧縮計で測る |
| 温間でエンストし再始動しにくいが、圧縮は十分ある | スロットルボディ | 圧縮を測ったうえで点検 |
温間の再始動不良は圧縮低下の典型ですが、前期の8万km超の車で、圧縮が約850kPaあったのに温間で始動しにくく、スロットルボディの交換で直った例がありました。症状だけで載せ替えを決めないほうがいい理由です。セルの弱りはセルモーターの記事にまとめています。
圧縮値の読み方
ロータリーの圧縮は専用の圧縮計で測り、回転数で値が変わるため約250rpm時に補正して読みます。RX-8の基準は標準830kPa、限度680kPa。旧車の専門メディアは650kPa未満、または3つの燃焼室の差が150kPa以上をオーバーホールの目安としていて、資料によって限度の書き方が少し違いました。冷間は油膜がシールの隙間を補うのでかかり、温まると油膜が薄くなって弱さが表に出る、という仕組みです。距離の目安は8万〜9万km、管理が悪ければ5万kmで落ちるとされ、前期(2003〜2007年)で多いという記述が目立ちました。
シールが傷む原因として挙がっていたのは、サイドシールの隙間に溜まるカーボンと、ハウジングを潤滑するメタリングオイルの不足。メタリングオイルの管のチェックバルブが固着し、7.8万kmで動かなくなった例も紹介されていました。後期(2008年以降)はメタリングポンプの電磁化やノズルの追加、セルの改良が入っていて、前期より圧縮低下の報告は少なめです。
どうやったら直るか
安い順に潰していく
整備工場が勧める順番は、デチョーク、プラグ交換、コイルとプラグコードの交換、バッテリーとセル、最後に圧縮測定。プラグは街乗りで2万km、コイルとコードは5万〜6万kmが交換の目安とされています。2007〜2011年ごろの品番末尾Bのコイルは、壊れてもチェックランプが点きにくい厄介な世代と専門店が書いていました。初期型は距離が伸びるとセルの出力が足りなくなり、対策済みのリビルトセルで改善した記録もあります。デチョークは何度も繰り返すとセルを焼くので、2〜3回で止めておくのが無難です。
圧縮が落ちていた場合
全室が均等にやや低い程度なら、燃料系の洗浄剤を入れて200kmほど走り、オイルを替えたら圧縮が戻って温間の再始動不良が消えた例があります。一方で、1年いろいろ試したが戻らず載せ替えた、という報告もあり、効くかどうかは状態次第。限度を下回っていれば、純正リビルトエンジンへの載せ替えか、専門店でのオーバーホール、中古エンジンのどれかになります。中古エンジンは保証が1か月程度のものが多いとされ、もう一度同じ症状が出る可能性も含めて考える選択肢でしょう。
保証とリコール
北米ではマツダが2008年にロータリーエンジン本体の保証を8年10万マイルに延ばしましたが、日本国内で同じ措置は見つかりませんでした。国内でよく見る「7年」はマツダの有償延長保証のプランで、RX-8専用の措置ではありません。リコールは燃料ポンプやポンプリング、エンジン制御プログラム、エアバッグなどがあり、未実施なら車台番号で照会できます。
直すにはこれくらいの費用がかかる
| 年式・距離 | 内容 | 店 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 前期 | かぶり対処+プラグ等 | 整備工場 | 12,600円 |
| 前期 | コイル4本+プラグコード | 部品代 | 25,000円 |
| 後期 8.4万km | リビルトエンジン載せ替え | ディーラー | 約75万円(工賃込み)+予防交換約9.5万円 |
| 2017年 | 載せ替え工賃のみ | ディーラー | 118,891円 |
| 不明 | 載せ替え+ラジエーター修理 | ディーラー | 102万円 |
| 2011年 約14万km | オーバーホール | ロータリー専門店 | 部品約50万円+工賃20万円弱 |
| — | オーバーホール定価 | 専門店3社 | 35万〜58.9万円+脱着12万円 |
かぶりやコイルで済めば数万円。圧縮が落ちていた場合は、ディーラーのリビルト載せ替えで75万円前後、ラジエーターなどの予防交換や推奨部品を足すと100万円を超えた例もありました。専門店のオーバーホールは定価で50万円前後から、実例では総額70万円台。ディーラー見積もりの内訳では、エンジン本体が大半で、工賃は12万円ほどです。後期の8万kmの車は中古車保証で載せ替え費用がまかなわれていて、買ってから日が浅いなら保証の残りを最初に確かめる価値があります。
同じ時期に重なるもの
エンジンを載せ替えるほどの距離になると、周りの部品も順番が来ています。ディーラーの見積もりでは、ラジエーターや電動ファン、サーモスタット、ホース類、ウォーターポンプのハウジングが予防交換として並び、9万円台が上乗せされていました。載せ替え後にコイルが焼けて10万円ほどかかった例もあります。前期ならセルモーター、後期ならフロントカバーからのオイルのにじみも気にかかるところ。載せ替えるなら冷却系を同時に替えておくと、次にエンジン周りを開ける回数を減らせます。冷却系の費用の目安はラジエーター交換費用の記事にまとめました。