キーを挿して回しても、メーターは暗いまま。いつもならハンドルのあたりで鳴るウィーンという音も聞こえてこない。それなのに、リモコンでドアの鍵は開け閉めできる。メルセデス・ベンツのCクラス(W204)やEクラス(W212)、Eクラスクーペ(W207)では、この症状の陰に電子ステアリングロック(ESL)の故障が隠れていることが多くあります。まず始動しない原因を切り分ける方法、ESLだった場合の直し方と費用を整理しました。

どこが原因かを確かめる

エンジンがかからない原因は一つではありません。輸入車の整備工場が示している切り分けを、症状の順に並べるとこうなります。

症状 疑わしい原因
キーレスのリモコンが反応しない キーの電池切れ(イモビライザーが働いてかからない)
メーターが点かない、リモコンも弱い バッテリー上がり
メーターが点かないのに、リモコンでドアは開け閉めできる。ハンドルロックの解除音がしない、Pから動かない ESL(W204・W207・W212で多い)、または電子イグニッションスイッチ(EZS)
「キーを認識できません」の表示、スペアキーも駄目 EZS
メーターは点くのにセルが無音 スターター本体、リレー・ヒューズ、コンピューター系
セルは回るがかからない 燃料ポンプなどの燃料系、点火系
一度止まったあと、時間をおくとかかる クランク角センサー、カムセンサー

間違えやすいのが3行目。W204・W207・W212では、バッテリーが正常でもESLが原因でメーターが点かないことがあり、バッテリー上がりと思い込んでしまいがちです。リモコンでドアが開け閉めできるかどうかが、見分けの手がかりになります。ESLとEZSは同じような症状を出すので、最後は診断で切り分ける流れです。

ESLが壊れる仕組みと予兆

ESLは、キーを回すとモーターでハンドルのロックを外す部品です。中のモーターのブラシが摩耗する、基板のデータが壊れる、あるいはその両方で動かなくなります。予兆として挙がっていたのは、キーを挿したときの解除音が遅れる、長くなる、低く鈍くなるという変化。何度か挿し直すとかかる、という段階を経て、ある日まったく反応しなくなります。W204の前期で多発したとされますが、2012年式や2014年式の後期でも予防のための交換依頼が増えている、と鍵の専門店は書いていました。何年・何kmで壊れるかを示したデータは見つかっていません。同じ症状は古い世代(W203やW211など)でも起きていて、S203の例もありました。

古い世代では、ESLの不良がメーターの「ブレーキパッド警告」の表示や走行中のエンストという形で現れた例もあり、症状だけで決めつけにくい部品です。また、W205(2014年以降のCクラス)で数日に一度始動しなくなり、バッテリーとセルを新品にしても直らないまま原因が特定できなかった相談もありました。年式が新しくなると原因の候補はコンピューターや通信系に広がるので、W204・W212の「ESLの持病」と同じ話として扱わないほうが安全です。EZSの分解修理は、R171のSLKで6万〜8万円(税別)という例がありました。

どうやったら直るか

選べる直し方は3つ

一つ目は、ディーラーが基本としている新品のESLへの交換。確実ですが、同じモーター式の部品なので、また壊れる可能性は残る。二つ目は、現品をモーター交換やデータ修理で直す方法で、郵送で受け付ける専門店があります。費用は抑えられるものの、モーター式であることは変わりません。三つ目が、ESLを電子的に置き換えるモーターレス化(エミュレーター)。ほぼ壊れなくなるとされ、故障前の予防として施工する人もいます。ただ、学習が終わるまでエンストすることがある、正規ディーラーで入庫を断られる可能性がある、という注意点も書かれていました。車検には影響しないとされています。

自分でモーターを替えるのは危険

ESLのモーターだけなら1,000〜3,000円ほどで手に入り、自分で交換する人もいます。ただ、ギアの位置がずれると基板が盗難防止のロックをかけ、車が完全に動かなくなった実例がありました。安く済ませようとして、かえって高くつく典型です。放置した場合は、ある日突然、出先で動けなくなる。ハンドルがロックされたままでシフトもPから動かないため、レッカーが必要になります。ESLを対象にしたリコールや保証延長は、国内では見つかりませんでした。

直すにはこれくらいの費用がかかる

車種 内容 店 金額
W204・W207・W212・R172 エミュレーター製作(郵送、EZSとキーを送る) 鍵の専門店 27,500円
W204ほか 郵送修理:モーター交換/データ修理/両方 鍵の専門店 25,000円/35,000円/60,000円(税別)
W204 現品修理/コア交換(郵送) 修理専門店 35,000〜55,000円/85,000〜90,000円(税別)
W204 前期 出張でのモーターレス化 鍵の専門店 52,000円〜(税別)
W204 後期 2012年式 予防のモーターレス化(シャフト脱着込み) 鍵の専門店 82,000円(税別)
W204 ESL修理(レッカー入庫) ディーラー 約8万円
W204 ESL新品交換の相場 ディーラー 10万〜15万円

郵送でのエミュレーターや現品修理なら3万〜6万円、出張でのモーターレス化が5万〜8万円、ディーラーの新品交換が10万〜15万円。ESL以外の原因なら、民間の整備工場の目安でクランク角センサー3万円、燃料ポンプ4万〜5万円、スターター10万円ほどで、ディーラーでは同じ作業が6万円、12万円、18万円からとされていました。輸入車の電装部品は、どこに頼むかで2倍近く変わるのが普通です。レッカーで運ばれた先で急いで決めず、原因がESLと分かった段階で、修理の方法と金額を比べる余裕を持てると損が少なくなるでしょう。

同じ時期に重なるもの

ESLが壊れる年式のW204やW212は、EZS、電子キー本体、スターターとリレー、クランク角センサー、バッテリーといった始動まわりの部品が同じ時期に傷みやすい部分。冷却系のサーモスタット(ベンツのサーモスタットの記事)やエアサス(ベンツのエアサスの記事)など、車種によってはほかの持病も並んでいます。ESLを直した翌年に別の電装で同じくらいの出費、という重なり方を考えると、診断のときに他の故障記録も一緒に読んでもらうのが得策です。